1997年11月から1998年1月の期間で横浜美術館で行われていた、「ルイーズ・ブルジョワ展」を観に行ったのを今でもよく覚えています。とても寒い日でした。

今から27年前、東京アートシーンは有相無相な現代アートという黒船によって、目新しい価値観と共に賑わっていました。
当時のインターネットは黎明期が過ぎて一般に普及し始めた頃にありますが、情報獲得のツールは依然出版業界が担っている時代です。

都会に憧れたカントリーガールは上京し晴れて芸大に進学したのは良いが、その様相と時代の変化に面食らってしまいます。

デッサンと塑像(彫刻科専攻でした)に明け暮れた日々から、現代アートの知見を取り入れるために横文字と難解な批評言語を解読していかなければならない日々へと一変し、
アカデミックな教育理念を背負いながらも、アートマーケットの文脈や矛盾に誘われすっかり思考停止状態、自分は何がしたいのか分からなくなっていました。

そんな頃、日本、アジアでも初めての開催となる「ルイーズ・ブルジョワ展」が同級生の間でとても話題になりました。
行った人はとにかく凄かった、と言うのです。
一体何が凄いのか、気になりますよね。

ブルジョワは1911年フランス・パリで生を享け、1938年アメリカへ渡りニューヨークを拠点とし制作活動を生涯にわたり続けます。
第一次大戦後の狂乱時代と呼ばれる1920年代パリでの幼少~青年期を廻り、支配的な父親とそれに従わざるを得ない母親からの影響を日々受けて育ちます。

機能不全家族の複雑でトラウマティックな出来事は表現のインスピレーションとなり、存在不安、怒り、によって強烈な「生」がたちこめている作品を多く生み出します。

事前に知識を入れずに行った(そもそも入れられない)展覧会でしたが、理屈抜きでただただ圧倒され、「生きることへの強い意志」は芸術から受け取ることができるのだ、というシンプルで根源的でもある体験となり、とても大切な出来事として今でも心に残っています。

灯の見えない闇夜の航海の中、小さな船で必死にオールを漕ぎ続けている状態は、それは不安定で辛い時期を過ごす事になりましたが、ひとつの灯が見えたような気がして、そこへ漕ぎ出す力が湧いてきたことも思い出されます。

現在に話しを戻しまして、2024年秋に再び「ルイーズ・ブルジョワ展」が開催されます。

ブルジョワの展示はここ数年パブリックコレクションなど様々な場所で出会えるようになりましたが、27年ぶりの国内最大規模の個展であり、約100点に及ぶ作品が構成されて観れるそうです。

現代のフィルターと情報を通して作品を観てもいいし、ブルジョワ独特の知性あるブラックユーモアに共感を寄せてもいい。
現代の苦しみに向き合うことができ、理屈なしに元気になって乗り越えるきっかっけを与えてくれる展覧会であるのは予想できます。


2024年9月25日〜2025年1月19日
森美術館
「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」

https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/bourgeois